STORY
起業ストーリー
はじめに
大野美奈さんは兵庫県姫路市で生まれ、三歳上の姉と二人姉妹で育った。幼いころから「誰かを支える仕事」に憧れ、保健室の先生になるのが夢だった。しかし自宅から通える大学に限るという家族の事情で進路を変更し、親族が多く従事する栄養士の道へ進学。卒業後は病院に勤め、献立作成や患者食の管理を任される正職員となった。午前3時起き、5時に出勤、片道一時間の通勤、役職責任──厳しい環境ながらも6年間働き続けた。
コロナ禍での孤立と救い
転機は結婚と出産だった。コロナ禍まっただ中の2020年、第一子となる長男を出産。立ち会い出産も親子学級も中止、児童館も閉鎖され「夫以外の大人と話さない日々」が続いた。長男は可愛い、けれど自分だけ取り残されたような孤独が膨らみ、心が限界に近づいた。出口を探すようにネットで「赤ちゃんと行ける場所」を検索し、やっと見つけたのがベビーマッサージ教室。教室で同じ月齢の赤ちゃんを抱く母親たちとたわいない会話を交わした瞬間、胸の重石が音を立てて外れた。「私、一人じゃない」。その感覚が彼女の人生を動かす。
退職と自分軸の選択
育休延長の末も保育園は決まらず、復職は難航。上司の「本当に戻りたいか、人生を考えてみて」の言葉が突き刺さった。職場は好きだったが、午前4時起きの生活に子どもとの時間は少ない。迷いながらも退職を決意。かつて自分が救われたベビーマッサージを学び、資格取得へ踏み出した。この「自分で決めた」選択が初めての自分軸。一歳の長男を抱え、オンライン講座と自宅学習を重ね、翌年講師資格を取得した。
「ハピフレル」の誕生と成長
2021年に自宅教室「ハピフレル」を開講。教室のコンセプトは「ママが主役」。おむつ交換も泣き声も気兼ねなく、母親自身がホッとできる空間づくりに徹した。活動は口コミで広がり、3年目の今では多くの参加者が集まっている。参加者の動機は二つ。「子どものため」と「自分の限界を感じたから」。大野さんは後者のママが「自分へのご褒美で来た」と言い換えて帰る姿に何より喜びを感じる。そして2024年には、長女を出産。
大野さんが届けるメッセージ
大野さんは語る。「家族を幸せにする順番は、まず自分を満たすこと。私が笑えば子どもも笑う」。自分の幸せを後回しにしがちなママたちへ、彼女は身をもってその大切さを示している。栄養士として培った専門知識、高い共感力、そして孤独を知る当事者としての経験──すべてが今、母親たちのオアシスづくりに注がれている。
PROFILE
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